研究概要 |
本研究の目的は,対人ストレッサーの基本類型,生起頻度,インパクトなどの文化差を明らかにすることである。最終年度である本年度は,2つの研究プロジェクトの成果をまとめることを主たる課題とした。第一のプロジェクトである,名古屋大学教育発達科学研究科の協力を得て実施された「特定関係における対人ストレスの日米比較」については,アメリカでの調査が本年度前半にようやく終了したが,分析の結果,「部分的には対人摩耗が日本よりアメリカにおいて顕著である」などといった予測に反する結果が少なからず見いだされ,その分析手法や解釈などについて,現在慎重に検討を進めているところである。これら調査実施の遅延や予期せぬ結果によって,残念ながら本年度中に論文としての体を成すことは困難な状況であるが,その部分的な成果である日本データ限定での結果については,2009年8月の日本心理学会,同10月の日本社会心理学会・日本GD学会合同大会で発表された。第二のプロジェクトである,カリフォルニア大学サンタバーバラ校心理学部の協力を得て実施された「全般的対人関係における対人ストレスの日米比較」については,「対人過失や対人摩耗といったある種の対人ストレッサーはアメリカ人に比して日本人の方が経験しやすい」という予測を支持する結果が見いだされ,その成果は2010年1月の国際学会において発表されるとともに,雑誌投稿論文として現在審査中である。さらに本研究にまつわる先行研究レビューの成果が,2010年4月刊行予定の書籍「対人関係とコミュニケーション」(誠信書房)の第10章「対人関係のストレス」に部分的に援用された。ここでは対人ストレッサーの認知,対人ストレス直面時の情動的反応,対人ストレスへの対処という3側面において文化が調整要因となる可能性が指摘され,これも対人ストレスと文化的要因の関連を明らかにするという本研究の成果の一部と言えるであろう。
|