本研究では、社会的情報処理と情動制御の2側面から反社会的行動が生起する二重内的過程を包括的にモデル化し、その発達的変化と適応的な方向での様態を明確化したうえで、内的過程に影響を与える要因を近接的要因(友人、家族、学校など)と遠隔的要因(社会環境や社会システム)の両面から同定することを目的とする。本年度は、1.社会的情報処理や自己制御における目標階層性の検証、2.社会構造要因を統制した上での社会化要因を媒介した反社会的行動規定モデルの検証、3.地域階層的データを用いた社会環境から社会化要因への影響の検証、4.地域社会の集合的有能感を高める住民の相互作用の検証を行った。 1.では、状況や文脈に関連のない目標を不活性化することで自己制御に必要な目標を維持すること、行動の柔軟な変換を行うためには状況や文脈に対応した目標の維持が重要であることなどが明らかとなった。 2.では、複数国で実施した調査の結果から、住民の社会経済的地位や地域移動率などの社会構造要因を統制してもなお、地域の集合的有能感や共同体における暴力事象との直接的な遭遇が、当該地域の子どもの社会化に有意な影響を及ぼすことが確認された。 3.では、地域階層的データに対して多段共分散構造分析を実施し、学校単位での集合的有能感が、同じく学校単位での生徒の社会的情報処理に及ぼす影響を検討した。学校レベルの分析から、学校間の集合的有能感の分散が、その校区に住む生徒の認知的歪曲や逸脱行為の悪質性を軽視する傾向の分散を有意に説明することが明らかとなった。 4では、地域社会の集合的有能感を高める要因として、地域住民同士の私的交流と公的交流の影響を検討した結果、私的交流と公的交流のいずれもが集合的有能感の醸成に貢献していることを確認した。
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