これまでの検討において、接触頻度の高いルームメイト関係では、ネットワークが共通しているほど周囲には葛藤時に仲裁者となる他者が多いと認知しやすく、その共通性の高さによって相手から否定的な言動を向けられた場合でも相手の態度を不当なものだとは判断せず逆に正当化しうることを明らかにしている。しかしこれらの検討では、二者関係の相手に対する否定的・肯定的な評価のいずれか一方が変化するのか、あるいは両方の側面で変化するのかが不明であり、さらに知見の一般化可能性にも検討の余地が残されていた。 そこで、本年度は夫婦ペアデータを分析し次のことを明らかにした。ここで夫婦を対象としたのはその関係性が当事者にとって肯定的に評価される傾向が強いためである。分析の結果、次の二つのことが明らかとなった。(1)関係の相手と共有しないネットワークをより多くもつ者は、相手の否定的な言動を受けて相手に対する肯定的評価を低下させる。(2)否定的評価については相手からの否定的言動を受けることで高まる。これらのことから、ネットワークの共通性が関係内での相互作用に及ぼす影響は肯定的側面と否定的側面とで同一ではない可能性が示された。 また、親密な関係においてはしばしば、その相手からの暴力を受けながらも関係自体を魅力的なものとして認識する事例が報告されている。本研究の結果から、相手から否定的な言動を受けながらも積極的に関係を継続させようとする背景としてネットワークの共通性のあることが示唆された。 これらの成果を踏まえ、本年度は統制された条件下での葛藤相手に対する不当性評価をとりあげそれに及ぼすネットワーク共通性の効果を検討する予定である。
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