研究概要 |
格差社会が進行しているといわれる今日のわが国では,自己責任ということが強調され,他者への思いやりや想像力が損なわれてきているといわれる.皆自分の生活に精一杯で,自分の権利を声高に主張するばかりであったり,社会的に苦しい立場に置かれている人を,"本人のせいでそうなったのだからしかたがない"と,心理的に冷淡に切り捨てる傾向が強まっているのではないだろうか.その"切り捨て"の心理の背景には,"自分はそうなりたくないが,なってしまうかもしれない"という,自分の生活や将来に関する不安があると考えられる.人々はその不安を打ち消すために,"自分とその人たちとは違う"という心理的切り捨てを行い,自己のアイデンティティを肯定的に保とうとするのではないか.本研究は平成19年度・20年度の2ヵ年計画として,主に若者の雇用情勢(正規雇用・非正規雇用)および大学新卒の就職活動への挫折体験を題材に,上記の問題意識を扱うものである. 平成19年度は,就職活動に失敗した女子大学生への評価を扱った研究結果をまとめ,平成20年度の海外学会にエントリーし審査を通過した.また,就職活動に失敗した女子大学生への評価を新たに男子大学生にも求め,ジェンダーに基づく内集団・外集団成員への評価の違いという観点を導入した質問紙実験を実施した.さらに,来年度に行う市場調査会社を用いたWeb調査の準備を進め,見積りを取るなどしている.雇用状況や就職活動を題材にしているため,大学生を対象とするのみではサンプルの偏りから正確な結果を得にくいと考えられる.そのためWeb調査では,20代後半の社会人を対象に同様の問題意識による質問紙実験を行う予定であり,平成19年度はこの準備を進めた.
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