研究概要 |
(1)視覚刺激記憶における音韻類似効果と発話の関連:幼児47名(平均5.2歳)を対象に、音韻類似系列(例:きりんきのこ)と音韻非類似系列(例:うさぎだんご)を線画により視覚的に呈示し、系列再生を求める課題を実施した。呈示中の自発的発話の有無及び発話の内化レベルをコーディングした。音韻非類似系列の方が類似系列より再生成績が高く、視覚刺激の記憶における音韻類似効果の影響が確認された。音韻類似系列の再生成績は、内化していない発話と負の関連を示した一方で、内化レベルの高い発話と正の関連を示した。年齢、言語年齢及び数唱記憶課題(ワーキングメモリ)を制御しても有意であった。言語化が音韻類似系列の記憶に妨害的に働いたことと、音韻類似効果が見られたことは、6歳頃に現れる視空間的符号化から音韻的記銘へのシフト(Palmer,2000)を支持する。一方、内化の程度の高い言語使用が記憶を促進した。それらは音韻レベルではなく意味レベルでの処理に関与していると考えられた。 (2)協同的問題解決における他者への説明と自己との対話:新奇な製作課題を習得した後に、他児にその方法を教えながら課題遂行する場面を設定した。発話傾向の等質な2群にわけ、一方を単独試行群、他方を協同試行群とした。プレテスト-学習試行-条件試行-ポストテストの順で実施した。単独試行群では、条件試行におけるプライベートスピーチ(PS)は,学習試行中の実験者に対するソーシャルスピーチ(SS)やPSの多寡と類似した様相を示していた。一方、協同試行群では、学習試行でSS・PSともに示さない幼児でも、協同試行中のペア児へのSSに付随する形でPSを示した。プレテスト場面からポストテスト場面へのPSの増加は協同試行群の方が顕著であった。これまで有能な他者との協同の有益性のみが実証されてきたが、本研究の結果は、スキルの低い他者との協同のもつ有益性を示唆する。
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