研究概要 |
PISA調査などにおいて,記述式問題に対するわが国の生徒の無回答率が高いことが指摘されているが,PISA調査の設問はおもに西欧諸国の文化の中で構開発されたものであり,わが国の従来の教育やテストとは異質な部分があり,PISA調査の正答率や無回答率だけを見て,わが国の生徒の学力について議論するのは,わが国の教育実態を必ずしも正しく捉えたものとは言えない可能性がある. そこで,わが国の教師によって開発された読解テストを用いて,わが国と他国の生徒がどのように応答するかを比較することにより,設問の内容や問い方と,正答率,無回答との関係を検討することを試みた.具体的には,わが国と同じ東アジア文化圏に属し,2000年のPISA調査の読解力テストの成績はわが国と同程度であったが,2006年調査ではフィンランドを抜いて第1位であった韓国との比較を行った. その結果,必ずしもわが国の生徒のほうが韓国の生徒よりも記述式問題の無回答率が高いわけではないことが確認された.しかし,わが国の生徒は,文章中の語句を用いて回答することについては,韓国の生徒と同等かそれ以上に正答できるが,具体例や意見など文章中にはないことを書く問題はやはり不得手であることが伺え,これはPISA調査の結果などとも一貫したわが国の生徒における記述式問題への一般的な回答傾向であると考えられた.一方,文脈を読み解きそれに沿って回答することについては,わが国と韓国の生徒に違いがあることが推察された. また,受験者の能力評価において,端的に言えばテスト得点に対して,解答類型や設問の問い方どいうテストの構造的性質がもたらす影響についての検討も行い,テストの構造的性質がテスト受験者の能力評価に影響を及ぼしていること,また,項目分析の結果に基づいてそれらを改訂することの有効性が明らかにされた.
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