研究概要 |
本研究では, 読み書きに困難を抱えた児童について, その読みの特徴を眼球運動計測を通じた注視パタンの分析により検討し, 読み行動の観察や心理テストでは知ることのできない, 読み書き障害児の読みの特徴を明らかにすることを目的とした。我が国では読み書き障害児の認知的な特徴の検討に眼球運動計測を適用した研究は少なく, 報告された研究も少数事例を対象としたものに留まっている。また, それらは単語のみ, または文章のみを刺激としたものであり, 読み書き障害児の注視の特徴を多角的にとらえたものではない。そこで本研究では, 比較的多くの児童を対象に, カナ単語, 文章, 漢字といった多様な刺激を用いて, 読み書き障害児の読みにおける注視パタンの特徴を明らかにすることを試みた。対象となる読み書き障害児は8名であり, 小学2年生が5名, 5年生が2名,6年生が1名であった。対照群は, 読み書きに問題のない健常児9名(小学1, 2年生)とし, 画面上の刺激を見る際の注視パタンを非接触型の眼球運動計測装置により比較した。課題は, カナ単語音読(3, 4, 5文字のひらがな表記単語の音読), 漢字音読(学習済漢字, 未学習漢字の音読), 文章音読(2〜4ページの文章の音読), 漢字写字(実在しない偽漢字を15秒間みて紙に写字)の4つをこの順で実施した。その結果, カナ単語音読, 文章音読ともに, 読み書き困難児は健常児に比べ注視回数が多く, また, 健常児が単語の中心を注視するのに対し, 読み書き障害児は語頭部を注視しており, 一回の注視における処理単位が小さいことが示唆された。さらに, 漢字写字課題の結果, 健常児が漢字の左右の領域を均等に見るのに対し, 読み書き障害児の注視領域が左上に偏っていることが示された。今後, こうした注視領域の違いが漢字の学習困難にどのように繋がるのかをより詳細に検討していく必要がある。
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