研究概要 |
本研究は, 社会性を支える心的状態の理解に着目し, 人間の認知発達の過程を明らかにすることを目的としたものである。具体的には, 社会性が発揮される場面として, 道徳的判断に注目し, 子どもたちにとって, 作為と不作為の認識に違いがあるかどうかを検討した。平成19年度の成果を踏まえ, 平成20年度は以下を明らかにすることができた。 第1に, 先行研究や法律の専門書などを参考に, 作為と不作為の違いを確認した上で, 一般的な人間が, どのような場合を不作為と認識しているのかを調べた。これはこれまでの研究のサンプル数が少なすぎたため, 調査対象者を増やすことで, 結果を安定化させることを目的とした。その結果, 意図がある場合とない場合に分けられ, 意図がある場合には, わざと何もしないことで不利益を生み出す場合や面倒がって何もしない場合など複数に分類できた。これにより, 一般的な人間が, 日常的な場面で認識している不作為のパターンが明確化し, これまでの結果を頑健にすることができた。 第2に, 子どもを対象とする調査の課題の参考にすることを考慮し, 凶悪な犯罪的なものではなく, 日常的な場面に置き換えた課題を, 児童期の子どもたちに実施した。カウンターバランスを考慮し, 調査対象者を増やすこともできた。その結果, 不作為の認識には心的状態の理解が重要であるとともに, 結果や行為の背後の意図が同等の場合は, 作為の方が不作為より悪く感じる「不作為バイアス」の発達過程を明らかにすることができた。
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