研究概要 |
大学生(1年生から3年生)を対象に,日ごろの新聞の読み方に関する質問紙調査を実施するとともに,初年次学生を対象に,初年次学生を対象に何かについて議論されている文章(議論型ライティング文章)を評価させるという方法で,そのような文章に対する大学生の認識を調査した。 新聞については4割近い学生が2日に一度,30分前後は新聞を読んでいた。しかし,記事同士の関連を考えたり,TVなどの他の報道との比較検証を行ったり,同一ニュースの紙面による扱い方の違いを比べたりといった読解行動をとる学生は,そのさらに3割弱しかいなかった。またそのような批判的な読解を行うかどうかに,学年による違いは見られなかった。 大学での学業により近い文章である,議論型のライティング文章に対しては,初年次学生でも多くが「主張と根拠」の必要性を理解していた。ただし初年次前期の学生では個人差も大きかった。初年次後期の学生では,前期に少人数授業(20名程度以下で学生同士の議論等を行う授業)を受講したかどうかによる差が見られ,少人数授業を履修していた学生は,文章をより的確に評価していた。また,大学入学までに文章を読んだり書いたりすることが得意だったかどうかと,議論型ライティング文章評価の適切さの間には関連が見られなかった。これらの結果は,初年次教育のあり方を考える上で重要な示唆を含んでいると考えられる。特に,大学入学前後のリテラシーの接続と矛盾の克服を検討する必要があるだろう。 大学生のリテラシーに関わる教育実践は,入学以前のリテラシーからの「転換」を狙うものが多く,本研究の結果もその必要性を示している。だがその一方で,学生の入学以前のリテラシーを単に否定するのではなく,より発展させるという方向での教育方法論の構築も必要であると考えられる。
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