研究概要 |
「主張」「根拠」「反論」「反駁」という要素を持つ文章(議論型文章)を題材に, 大学生が自分の意見と異なる箇所を適切に理解し記憶できるかどうかに関する調査を行った。題材文章が示す主張に賛同する読者は「反論」の内容を, 賛同しない読者は「反駁」の内容を, それぞれ記憶しなかったり理解しなかったりするという仮説を立てていた。しかし実験を行った結果, 大学生は学年の違いに関わらず, 文章の内容を1週間後でも正確に記憶しており, 仮説は支持されなかった。 この結果と, 昨年度に行った「大学生の多くが新聞を読むときに記事同士の関係などを批判的に吟味していない」という結果を合わせて考えると, 本調査の対象としている比較的選抜生の高い大学における学生に限った場合には, 大学生の統合的読解力について次のような解釈が可能である。つまり, Brittらの先行研究は大学生が議論型文章を理解することに弱さがあることを指摘しているが, それは非自覚的な認知過程での話であり, 実際の学業場面のように自覚的に文章を理解したり記憶したりする場合には, 大学生は議論型文章を理解することそのものは可能である。 しかしその一方で, 実験で呈示される議論型文章とは異なり実際の学習場面で学生が資料として集める文章(新聞記事を含む)は, 議論の体系をきれいに整えた形で提示されるとは限らず, 大学における学業に関連した読解とライティングにおいて, 克服しなければ鳴らない課題を抱えていると考えられる。平成21年度は, 学生の大学入学後の統合的読解とライティングに関する課題の克服と大学入学以前のリテラシー経験の関係等について検討を進める予定である。
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