(1) 大学生の知的発達、人格発達にとってのリテラシー(統合的読解力やアカデミックライティング)の位置づけについて、心理学、言語学、教育哲学の知見をもとに検討した。心理学(特に認知心理学)をベースにした先行諸研究をレビューした結果、心理学研究の成果に基づくリテラシー教育は、学生の読解やライティングのパフォーマンスを表面的には向上させる一方で、学生が何のために読んだり書いたりするのかにについて、自分自身の思考を深めるよりもむしろ抑制する機能をもつものとして認識してしまう傾向があることが示唆された。そのため、大学教育の目的を学生の生涯発達の基盤形成ととらえた上で、大学教育における授業の位置づけから改めて問い直し、その中でのリテラシーの役割は学生自身の世界観をディシプリン知を使って構築・再構築するための手段であるべきとの結論に至った。 (2) (1)を踏まえて、学生が授業におけるリテラシー活動についてどのような認識を持っているかを探るために、リテラシー活動に対する学生自身の自己評価と教師評価の相違を検討した。方略の仕様のようなパフォーマンスについては両者に一致度は高かったが、「思考を深める」といった側面(世界観の批判的再構築など)については、教師の評価と学生の自己評価にはずれがあり、また学生自身の自己評価の揺らぎも大きいことが示された。
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