研究概要 |
本研究では円や三角形などの図形の描線動作について、その発達的変化を比較文化的手法により検討することを目的とした。本年度は、ドイツおよび日本の大学生を対象として実験をおこない、データを分析した。実験に参加したのはドイツ人大学生20名,日本人大学生21名であり,被験者はすべて右利きであった。被験者には円や三角形などの図形が印刷された用紙を配布し、右手と左手でそれぞれ図形をひと筆でなぞり描きするように求めた。また,なぞり描きするときに,描き始めの位置を指定しない条件と描き始めの位置を指定する条件を設定した。実験者は、各被験者の描画開始点および描く方向などを記録した。これまでの分析結果から,描画開始点を指定せず,利き手である右手で図形を描かせた場合に,文化間で描線動作に違いがみられることが明らかになった。すなわち,円描画課題において,ドイツ人大学生は描画開始点を時計盤の11-12時の領域にとり,反時計回りで円を描いていた。それに対して,日本人大学生は描画開始点を時計盤の6-7時の領域にとり,時計回りで円を描いていた。また,三角形を描く課題においてドイツ人大学生は三角形の左下の頂点から右回り(時計回り)で描くことが多かった。それに対し,日本人大学生は頂点から左回り(反時計回り)で描くことが多かった。ただし,特定の描画開始点から描き始めたり,左手で図形を描かせたりした場合には,描線動作に文化的な違いはみられなかった。今後,同様の実験をドイツ語圏および日本の幼児・児童に実施し,書字能力の発達との関連から描線動作の発達および文化的違いについて検討していく必要があるだろう。
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