研究概要 |
本研究の目的は円や三角形などの図形の描線動作について、その発達的変化を比較文化的手法を用いて検討することである。本年度は、ドイツ語圏および日本の幼稚園児を対象に実験をおこなった。実験に参加したのは, ドイツ語圏の4〜6歳までの幼児35名と日本の4〜6歳までの幼児46名であった。円や三角形などの図形が印刷された実験用紙を配布し、利き手でそれぞれ図形をひと筆でなぞり描きするように求めた。実験者は各被験児の描画開始点および描くときの手の運動方向などを記録した。また、名前を書字してもらい、各被験児の書きことばの習得状況を確認した。これまでに, 右利きの幼児(オーストリア29名、日本39名)のデータ分析まで終了しており、その結果から、幼児においては描画開始点や描くときの手の運動方向について文化間で違いがみられないことが明らかになった。書字習慣がまだ確立していない幼児期には, 描線動作に文化差がないことが示された。また、大学生と幼児の結果を比較したところ、ドイツ語圏においても日本においても発達差がみられた。幼児と比較して大学生は描画開始点や描く方向に偏りがあることが明らかになった。たとえば、円を描くとき、幼児期の子どもはどちらの文化圏においても, 円のさまざまな位置から描き始めるが、大学生においてはドイツ語圏では時計盤の11-12時の領域から, 他方、日本の大学生は時計盤の6-7時の領域から円を描き始めていた。今後, ドイツ語圏および日本の小学生にも同様の実験をおこない, 書字能力の発達との関連から描線動作の発達的変化および文化的差異について詳しく検討していく必要があるだろう。
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