研究概要 |
従来の高齢者のメタ記憶研究では,ほとんどの高齢者が「同じ年の人よりは自分の記憶能力が優れている」と評価する"自己高揚的認知"が確認されている。本研究では,このような高齢者のメタ記憶に対する自己高揚的認知の再確認を行うと伴に,どのような理由によりその評価が生じているのかを明らかにすることを目的とした.調査は65歳から84歳までの高齢者109名(男性43名,女性66名,平均年齢73.1歳)に対して実施した。その結果,従来の研究結果と同様に,30代の若い頃に比べて自分の記憶能力の低下を感じているものが感じていないものよりも有意に多かった.その一方,同じ年の他者と比べて自分の記億能力が優れていると感じているものは感じていないものよりも有意に多かった.すなわち,自己の記憶能力に対する自己高揚的認知が確認されたと言えよう.また,そのような評価を行う理由を自由記述で求めたところ「役員・役職をしているから」という社会的活動や「他の人が忘れることを覚えている,他人は忘れやすい」といった他者との比較,「ダンスをしている,運動をしている」などの身体的活動をあげる高齢者が多かった.まとめると,会議・会合などでリーダシップをとっている高齢者はその役割と合わせて自分の記憶評価をしているようであった.しかし,リーダシップをとっていない多くの高齢者でも,何気ない他人との会話において,日常的に自分の記憶評価を行っていると言え,その場合"他人の忘れやすさ(自分のもの覚えのよさ)"を日々確認していることが推察された.また,高齢者の多くが身体を動かすことは記憶能力の維持に重要だと考えているようであった.このように高齢者のメタ記憶を詳細に理解していくことは,老年期の生涯学習や知的活動を進めていく上で不可欠なものであり,高齢者との円滑なコミュニケーションに貢献するものと考える.
|