研究概要 |
本研究は, 高齢者のメタ記憶における「同じ年の人よりは自分の記憶能力が優れている」という自己高揚的認知に着目するものである. はじめに昨年度に引き続き, 高齢者の記憶に対する高揚的認知に影響を与えていると考えられる要因を検討するため, 高齢者と接触の多い大学生の言動(大学生の敬老意識と敬老行動)についての調査を実施した. 調査対象者は福祉を専攻する大学生127名(男性50名, 女性77名, 平均年齢18. 4歳)であった. その結果, 福祉を専攻する大学生は高齢者に対して「高齢者の知恵を授かる」「高齢者の持っている能力を引き出す」などを意識して実践していた. また, ほとんどの大学生が高齢者と接する際には, 高齢者への敬意, 尊敬の念を常に念頭においていると回答していた. この結果から, 高齢者はボランティアなどで関与する大学生から, 高齢者の現在の能力を評価する敬老の態度を示されていることが多く, このことが高齢者が自分の能力に自身をもつ要因の1つになっているのではないかと推測される. 次に, この高齢者の記憶に対する自己高揚的認知が精神的健康とどのように関係しているのかの検討を行うため, 高齢者5名(男性2名, 女性3名, 平均年齢74. 4歳)に面接調査を実施した. その結果「同じ年の人で認知症などに罹患している人がいる. 認知症ではない自分は幸せだ」などの意見が得られた. 今回の面接から, 自分の記憶をポジティブに評価することが日常生活の精神的安定につながっているのではないかと推察される. このように高齢者のメタ記憶を詳細に把握することは, 高齢者に対する理解を深め, 彼らに尊厳ある生活を提供するために重要であると考える.
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