研究概要 |
これまで,高齢者を対象として,自己の記憶能力を評価するメタ記憶を検討してきた.その結果,ほとんどの高齢者において「同じ年の人よりは自分の記憶能力が優れている」という評価を行う"自己高揚的認知"が見られてきた.このような認知の要因として「老人サークル活動(ダンス,カラオケ)をしているから」「認知症ではないから」など,高齢社会特有のものが見受けられている.本研究では,他国の高齢社会に生活する高齢者も自分の記憶能力などに対して,日本の高齢者と同様の評価をするのかの検討を行った.調査は,カナダ人の高齢者(男性12名,女性21名,平均年齢74.8歳)に対して,質問紙を実施した.その結果,カナダ人の高齢者においても,ほとんどの者が「同じ年の人よりは自分の記憶能力が優れている」と評価をしていた.すなわち,カナダ人の高齢者においても,他者と比較した場合に記憶評価では自己高揚的認知が生じることが明らかになった.その一方,日本人と同様に「過去と比較した場合」には,そのような認知は見られなかった.そのような評価を行う理由の回答において「同じ年の人よりも,活動的であるから」「毎日,楽しく過ごしているから」など,ポジティブな側面を重視していることが伺えた.日本では「同じ年の人では寝たきりの人や認知症の人がいるが私は違う」という回答が多く見られたのだが,そのような回答は少数であった.本研究において,環境や文化が異なる高齢者も,記憶に対する自尊心や自己効力感を維持していることを明らかにされた.このような研究は,高齢者の人権や尊厳を踏まえたうえでの,個性豊かな老年期の生活や活動を支援する際の一助となりえると考えられる.
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