研究概要 |
本研究の目的は,時間管理能力の基礎的認知能力のメカニズムおよび発達プロセスの解明である。昨年度の結果から,従来,空間概念などの空間に関する認知能力が時間に関する認知能力の基礎となると考えられてきたことが,発達的には同時期に空間概念,時間概念が同時期に発達することが示された。 本年度は,小学1年生,2年生,3年生を対象にして,時間については「間隔時間比較課題」,空間については「距離比較課題」を行った。「間隔時間比較課題」2つの間隔時間の長さを比較するものであり,「距離比較課題」は2つの距離の長さを比較するものである。どのような方略を用いたのかを分析することによって,時間および空間に関する問題解決を行うときに時間構造,空間構造がどのように利用されるのか,構造化の程度によってどのように異なるのかどうか検討するためにこの課題を実施した。各試行は,始点が同じ,終点が同じ,比較する間隔時間(距離)が同一階層,異なる階層にまたがるなどの特性を持つように作成された。 正答率についての学年差および時間構造・空間構造のレベルによる差は,すべての試行において示されなかった。「間隔時間比較課題」における方略については,時間構造の程度が高くないと,間隔時間に含まれる活動の数を比較したり,順序を比較する継時的な処理方略が用いられ,構造化の程度が高くなると比較する間隔時間や行為を時間構造に位置づけるという同時的な処理方略を使用する傾向が示された。同時的処理方略とは,時間構造における出来事の位置をその構造のなかで表象するものである。「距離比較課題」については,空間構造の構造化の程度が高くなるにしたがい,比較する距離やランドマークを空間内に位置づける傾向が示された。このことは,時間認知能力のメカニズム等を検討するうえで示唆的であるといえる。
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