本研究は、情報リテラシーの獲得が高次脳機能の低下の防止にどの程度寄与し、中高齢者のQOLの向上に貢献しているのかを一連の研究によって明らかにすることである。一連の研究で明らかにしようとするのは次の2点である。(1)コンピュータ・リテラシーを獲得し使用している中高齢者の高次脳機能は低下しにくい。(2)コンピュータ・リテラシーを日常生活の中で駆使することが中高齢者の生きがい感を向上させ、結果的に高次脳機能の維持に貢献している。これらのことを明らかにすることにより、中高齢者にとって情報化はどのような意味をもたらすのかについて老年心理学的および神経心理学的な視点から考察したい。本研究では、情報通信機器の使用状況を含む認知的活動の程度が高次脳機能に及ぼす影響について介入実験により検討した。 情報通信機器、コンピュータ、家庭用ゲーム機の使用状況を統制した介入研究から得られた結果は、コンピュータ・リテラシーに媒介される認知的活動に従事する頻度が高まると、(1)中高齢者の空間認知および注意に関わる機能の低下が緩やかになること、(2)中高齢者の自己効力感が高まり、結果として認知機能課題における遂行成績が高まること、が明らかにされた。中高齢者がコンピュータ・リテラシーに媒介される認知的活動に従事することにより、想像性や集中力が高められる可能性が示唆された。また、コンピュータ・リテラシーに媒介される認知的活動に従事することにより、自己効力感が高まることで、日常生活での課題への取り組みに対する意欲が向上するとともに、課題遂行への自信が高められたと推察される。以上の結果から、中高齢者が認知的活動に従事することは、中高齢者の認知機能や生きがいをポジティブに変化させる可能性があると考えられる。
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