研究概要 |
本研究は前頭葉損傷者の発動性障害の改善をめざした認知リハビリテーションを実施し,その訓練効果を検討することを目的とした.特に,本研究では,発動性障害者では視線を自発的に移動してあらゆる方向に注意を向け,環境内を探索しようとする行動が生起しづらいこと,また,発動性障害者の特徴として刺激に対する反応遅延が認められることに着目し,自発的な視線や注意の移動と,標的刺激に対する迅速な反応が要求される視覚探索課題を発動性障害の評価・訓練課題として利用した. 平成19年度は,前頭葉損傷に由来する慢性期の重度発動性障害者を対象として,単一事例研究法に基づき研究1と研究2を実施した.2つの研究ともに標的行動は視覚探索事態でのボタン押し反応による反応時間の短縮と正反応率の増加で,このための訓練課題として視線・注意移動訓練と反応促進訓練をおこなった.研究1では評価・訓練課題ともにGo課題,研究2ではGo/NoGo課題を使用した.その結果,研究1及び研究2のいずれにおいても,評価課題に対する反応時間においては明らかな訓練効果が認められなかったが,正反応率に関しては訓練経過に伴って徐々に高くなる傾向が示された.従って,少なくとも,空間内に視線や注意を移動させ,標的刺激に対して自発的に反応するという行動そのものの生起のしやすさといった点においては,訓練効果が生じたと考えられる.他方,訓練効果の般化については,視覚探索機能が要求される各課題や,ワーキングメモリや遂行機能,認知的柔軟性といった前頭葉機能が求められる各課題において訓練後に顕著な成績上昇を認めた.以上の結果は,本研究が対象としたような重度発動性障害者においても,認知リハビリテーション的な介入により発動性障害のある程度の改善が期待できること,また,それに伴ってその他の高次脳機能にも促進的な影響が及ぶことを示唆している点で意義があると考える.
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