研究概要 |
本研究課題は, 前頭葉損傷者の発動性障害の改善をめざした認知リハビリテーションを実施し, その訓練効果を検討することを目的としたものである. 平成20年度は, まず, 研究3及び研究4として, 慢性期の前頭性重度発動性障害者を対象に, 昨年度に引き続き, 視覚探索課題を利用した発動性障害リハビリテーションを実施した. ただ, 今年度実施した2つの認知リハビリテーションでは, 対象者の自発的な視線や注意の移動と反応速度の促進に加え, 訓練場面における患者の行動範囲を広げることをねらいとして, 画面上に呈示された標的刺激へのリーチングとタッチが要求されるタイプの視覚探索課題を用いた点が昨年度とは異なる. 研究3では評価・訓練課題ともにGo課題, 研究4ではGo/NoGo課題を使用した. その結果, 研究3と研究4のいずれにおいても, 標的刺激に対する反応時間については, 訓練経過に伴う目立った減少はなかったが, 誤反応率に関しては, 訓練が進むにつれて徐々に減少していく傾向が認められた. したがって, 対象者の反応の速さについては明確な訓練効果が得られなかったものの, 標的刺激に対して自発的に反応するという行動そのものの生起のしやすさにおいては昨年度と同様に訓練効果が生じたといえる. 一方, 研究5として, 本研究課題でおこなった認知リハビリテーションの訓練効果の般化について検討をおこなったところ, 遂行機能, ワーキングメモリ, 視覚探索, 全般的認知機能に関する般化課題のほぼすべてにおいて, 認知リハビリテーション実施後では導入前と比較して成績が改善したことが確認された. 以上の研究結果から, 本研究が対象としたような重度発動性障害者においても, 認知リハビリテーション的な介入によって発動性障害のある程度の改善が期待できること, また, それに伴って, 発動性以外の高次脳機能においても促進的な影響が及ぶことが示唆された.
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