研究概要 |
アルツハイマー型認知症(AD)の患者数は我が国では増加傾向にある。ADの臨床症状は認知機能障害のみならず,「認知症の行動および精神症状(BPSD)」に大別される。BPSDには多彩な症状がみられるが,全ての患者が一つないし複数のBPSDを呈する。BPSDへの第一選択は非薬物療法とされているが,治療効果の検討は不十分なままである。特にADを発症した後,初期段階より不安反応の発現が報告されている。そこで筆者は,非薬物療法であるリラクセーションプログラムが,多彩なBPSDの一つである不安反応に対し有効であるかを検討した。本研究において検討するリラクセーションプログラムは,認知機能障害を有する患者においても実施可能であることが確認されている(百々・坂野,2007)。AD患者を対象とし,通常治療との比較ならびにプログラムのプラセボ効果を検討した結果,継続的なリラクセーションプログラムへの参加により不安反応の抑制が認められた。またこの効果はプラセボ効果によるものではなかった。さらに通常治療のみでは身体的QOLは悪化するが定期的に心理学的介入を行うことで維持することが可能であることが認められた(百々・坂野,2009)。 患者にとって,認知機能障害の重篤度よりも,BPSDの有無がQOL低下の要因となっている。BPSD発現とストレスとの関係が指摘されている。近年ストレス評価として精神免疫学的指標が広く活用されている。しかしながらADを対象とした研究はほとんどなされておらず,基礎的資料は十分ではない。そこで精神免疫学的指標の一つである唾液中コルチゾールが,AD患者のストレス評価の指標として適用できるかを検討した。その結果,唾液中コルチゾール濃度とBPSDの重症度との比較的強い相関関係が認められた。また唾液中コルチゾール濃度の日内変動が崩れていたことから,患者が慢性ストレス下にあることが示唆された。本研究より,唾液中コルチゾールはAD患者のストレス評価指標として活用する可能性が示唆されたと考える(百々,2010)。
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