本年度は「運動刺激による知覚的空間の歪みに関する実験心理学的研究」というテーマの中でも、特に【a】「視覚運動刺激による視空間の歪み」の座標軸(網膜座標系-絶対座標系)の問題、【b】視覚運動刺激によって視覚刺激の位置表象が影響を受ける際に、どのような時間変化で視空間が歪むのかという点に焦点をあてた研究を行った。【a】に関しては、視覚運動刺激による空間の歪みが、物体中心座標系で生じているにもかかわらず、その視覚運動入力は網膜座標上のものであることが分かった。この結果は、人間が運動刺激を観察する時に生じる視覚空間の歪みが、脳内での複数の座標軸のインタラクションの結果であることを示唆している。この研究成果は、予想を上回る効率で進展できたため、国内外の研究会等で報告した後。速やかに国際誌に投稿し、受理されている。【b】に関しては、視覚運動刺激のそオンセットとオフセットの時間の周辺にプローブを提示することによって、視空間の変形のダイナミクスを計る実験を行った。その結果、運動刺激の前方と後方では異なったメカニズムが働いていることを示唆する結果を得た。この成果に関しては、現在国際誌への受理に向けてまとめているところである。一方で、新たな試みとして、空間的な歪みだけではなく、時間的な歪みにも研究の展開を行い、予測されない視覚刺激が提示された時に、その時間的近傍のイベントが、その予測されない視覚刺激のタイミングにより近く感じられるという現象(temporal magnet effect)を発見した。
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