本研究の目的は、古くから知られているものの、未だその機序が明らかにされていない「過渡的コントラスト誘導現象(TLCI:Transient luminance contrast induction)」の解明に向け、新たな洞察を得ることである。TLCIとは、細密な白黒線分で構成されるパターンを動かしたときに、パターンの一部の知覚的コントラストが強調され、パターンの運動に伴って強調された部分が様々に動揺して見える現象である。本研究では、多様な条件で観察されるTLCIに対する統一的な説明理論の構築を目指している。 研究の第1段階として、TLCIを組織的に解析するための刺激パターン及び実験条件の設定を目指した。具体的には、白黒線パターンによつて発生するモアレ現象を回避し、かつ、実験の試行間で同一のTLCIパターンを誘導するための、コンピュータ制御によるデジタル画像を作成した。精神物理学実験に精通した被験者による予備実験の結果、TLCIは広範囲の刺激条件で観察されることが確認され、このうち、TL、CIが最も明確かつ容易に観察される刺激条件(フレーム周波数60Hz、平均輝度80cd/m^2のCRT上で、空間周波数4cpd、Michelson contrast 98%の線パターンを、5deg/sec以下の速度で往復運動させる)をその後の実験における基準として設定した。この基準刺激を用いて、15名の被験者を対象とした本実験を行い、4種の運動条件(上下・左右の並進運動、拡大/縮小運動及び回転運動)に関して、一貫したTLCI運動が知覚されることを確認した。本年度実施の上記結果により、TCLIを組織的に解析する実験的基盤が確立された。
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