ヒトはより進化した社会性を持つが、この社会行動を行う上で重要な脳領域は扁桃核である。多くの脳領域がごく少数の領域としか直接の神経連絡を持たないのに対し、扁桃核は海馬や嗅覚・聴覚・視覚など多くの領域と直接神経連絡があることがマウスなどで解剖学的に示されている。そこで、ヒトと同様に高い社会性を持ち、実験的に社会的環境を制御しやすい鳥類を用いて、社会性の発達・社会的刺激の認知場面における扁桃核の可塑性と社会行動への関与について検討することを目的とし、実験を行った。 社会行動の発達と扁桃核の関与を探るために、社会行動が劇的に変化する日齢のキンカチョウのヒナの脳を免疫組織化学的手法・解剖学的手法を用いて染色し、ヒナの脳の活性部位の変化を観察した。結果、扁桃核は、社会行動が変化するよりもはやい時期から観察された。また、はやい時期から安定して観察できる脳領域は扁桃核だけであった。 キンカチョウの行動発達を観察していると、視覚が発達する頃から様々な社会行動の学習が始まるように見える。しかし、目が開く日齢には、すでに扁桃核において高い活性が観察されたことから、扁桃核は社会行動の発達をリードする形で形成・発達されることが予測された。 また、歌学習が活発な日齢のオスでは、扁桃核・海馬・歌制御神経核それぞれの体積が非常に大きかった。これは、歌学習行動の変化と対応した脳の変化も起きていることが確認されただけでなく、社会的入力が必要と考えられている歌学習に扁桃核が関与している可能性を示唆するものであった。
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