研究概要 |
本研究は、日本人乳児を対象に、日本語環境に特徴的な音声刺激に対する単語分節化能力の発達を、発達行動心理学の行動実験手法と電気生理学の事象関連電位測定手法を用いて明らかにすることを目的とする。研究手法として、乳児に人工語が埋め込まれた人工超分節系列を数分間聞かせ馴化させた後に、選好振り向き法により人工語の弁別をテストする統計学習実験(Saffanら1996,Aslinら1998)を行い、また、音声刺激に惹起される事象関連電位も測定する。本年度の研究実施計画では、6、8、10ヶ月の各月齢40人の乳児に対する統計学習実験と、同月齢各30人の乳児に対する事象関連電位測定実験を行うことを目標とした。これに対して本年度は、6.5、8、10、11.5ヶ月の合計315人の乳児を対象にした統計学習実験を実施し、また、4ヶ月を中心とする合計89人の乳児を対象とした事象関連電位測定を行った。統計学習実験では、先行研究で報告された8ケ月の英語圏乳児の単語分節化能力が、日本人乳児でも示されることが予想されたが、全ての月例において単語分節化能力は示されなかった。更に、単語分節化のヒントとなる音韻的特徴を与えた人工超分節系列を用いたパイロット実験においても単語分節化能力の傾向は示されなかった。これより、日本人乳児の単語分節化能力は生後1年目では発達されない可能性が考えられるが、実験設定の妥当性を確認するために、純音刺激による分節化実験を現在行っている。事象関連電位測定では、単語分節化能力に関する事象関連電位測定に先駆けて、その基礎的参照データとて、母音の違いや特殊拍の挿入に惹起されるMMNの測定を行った。これにより、乳児を対象とした脳波測定の安定した実施が確立された。
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