研究概要 |
平成20年度までの本研究結果では、英語圏先行研究が報告する8ヶ月乳児の統計学習による単語分節化能力を日本人乳児は示さず、分節化は刺激音に依存して示され、また、言語発達研究チーム(平成19、20年度代表者所属部局)における研究で、対乳児発話に対する日本人特有の音声特徴への選好は乳児、成人ともにないことが示された。このため、本最終年度では、英語圏先行研究で用いられてきた、シラブル(本研究ではモーラ)を単位に人工語を構成する方法に、日本人乳児の単語分節化能力を調べる上で原理的困難があると考え、成人の連続量の時系列学習実験にもとついて、状態遷移確率に基づく統計学習実験の原理を検討した。また、母音の違いや特殊拍の挿入に惹起される事象関連電位の分析を行った。成人の時系列学習実験では、音高やフォルマント周波数などの連続音声量の時系列に埋め込まれた因果関係が素早く学習されることが明らかとなった。ここで、認知の計算モデル研究では、連続量の時系列学習は確率的状態遷移の処理を実現することが論じられている(Tani, Fukumura 1995、 Namikmwa, Tani in press)。このため、統計学習による単語分節化能力は必ずしもシラブル(モーラ)などの記号上の確率的状態遷移の学習に基づくのではなく、連続的な音声情報として処理される能力的基礎があることが結論づけられた。事象関連電位の分析からは、検討可能なデータを得たが、特殊拍の挿入と成人、乳児の差異は論じられなかった。以上の研究結果は、分節化を含む音韻処理の研究方法の基礎的知見を与える意義がある。
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