研究概要 |
視覚探索課題は空間的な注意制御メカニズムを検討するために広く用いられてきている課題である。しかし,これまでの研究の多くは,幾何学図形や文宇など,抽象的なオブジェクトを実験刺激として使用してきたため,日常生活場面における注意制御様式に関してはほとんど明らかにされていない。そこで本研究では,これまでの視覚探索に関する知見を日常生活場面に適用していくため,日常生活場面を模した実験刺激(以下,自然画像と呼ぶ)をコンピュータグラフィックス上で作成し,それを用いて視覚探索中の注意制御特性(特に,記憶の働き)を明らかにすることを目的とした。 実験では,自然画像を288シーン作成し,シーン内に提示されている標的(ミニカー)の探索課題を実験参加者に課した。その結果,各シーンの探索時間は参加者間でほぼ一致しており,シーンに固有の探索難易度が存在すること,シーン固有の探索難易度は標的の提示位置や大きさ,周辺とのコントラスト,空間周波数などの物理変数では十分に説明できないことが明らかになった。また,各シーンを繰り返し提示したところ,探索時間が有意に短縮されることが明らかになった。これは各自然画像における標的の位置(視覚的文脈)が記憶・学習された結果であると考えられる。自然画像における文脈学習の記憶容量は非常に大きく,240種類の自然画像を用いた場合でも学習が生起すること,各自然画像に対する反応時間の順位はブロック問で有意に一致しており,学習が生起しても相対的な探索難易度はほとんど変化しないこと,学習によって情報処理速度のばらつきが小さくなることなどが明らかになった.これらの成果から,日常生活場面における注意制御には多くの人に共通のパタンがあり,学習によってもほとんど変化しないことが示された。
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