研究概要 |
本研究では、これまでの視覚探索に関する知見を日常生活場面に適用していくため、日常生活場面を模した実験刺激(以下,自然画像と呼ぶ)をコンピュータグラフィックス上で作成し、それを用いて視覚探索中の注意制御特性(特に、記憶の働き)を明らかにすることを目的とした。平成20年度は、まず、自然画像461シーンを用いて、シーン内に提示されている標的(ミニカー)の探索課題実験を行った。そのデータから、各シーンの物理的要因(標的の位置、大きさ、周辺とのコントラスト、空間周波数など)がシーンに固有の探索難易度にどの程度影響しているのかを重回帰分析を用いて検討した。その結果、全分散の14%程度が物理的要因で説明できることが明らかになった。また、物理的要因の寄与する傾向は幾何学的図形を刺激として用いた場合と異なることも示された。例えば、幾何学的図形の場合は刺激の右上方に注意が向きやすく、自然画像では中央下方に注意が向きやすい傾向があった。これは、自然画像の場合、床面などに対象が存在しやすいという文脈を反映しているものと考えられる。また、自然画像における視覚的記憶の特性を調べるために、ドット追跡課題(時系列的に提示されるドットを追跡し、そこにあるオブジェクトを記憶する課題)を用いた実験を行った。自然画像をそのまま提示する条件とシーンの文脈を崩した条件を比較した結果、記憶成績に与える文脈の影響は、保持時間に関わらず、ほぼ一定であった。この結果は、文脈がオブジェクトトークンの視覚的記憶の記銘プロセスに強く影響している可能性を示唆している。
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