昨年度に引き続き、イギリス教育史に関する文献について、刊行資料の整理、収集を行った。 中断前に着手していた18世紀-19世紀における貧民徒弟の教育に関して、特に19世紀後半の実態と課題について国内外の先行研究とクロス委員会調査報告書をもとに明らかにした。19世紀は法律によって貧民児童に対する教育の保障が規定される一方で、救貧児童は「教育を受けるに値する者」として位置づけられた。そして彼らを対象にした各種の学校が設置されると同時に、彼らを一般の労働者階級児童と同じ公営の基礎学校で学ばせ、救貧児童を普通の子どもと同じように育てようとする動きも出るようになった。そこで救貧児童が公営基礎学校で学ぶことを労働者の保護者や教師はどのように受け止めていたのかを1888年に出されたクロス委員会調査報告書をもとに明らかにした。この研究の成果は2009年9月21日に開催された「子どもの福祉と職業教育」研究会で「19世紀末イングランドにおける救貧と職業教育-貧民の子どもはどこで教育を受けたのか-」の題目で報告した。報告の概要及び議論の内容は『「子ども」の保護・養育と遺棄をめぐる学際的比較史研究』のディスカッション・ペーパー、Web版第一号に掲載されている。 また、18世紀の専門職教育とシティズンシップ(社会に対する責任と役割)教育との関係についての研究にも着手し、当時の専門職教育の状況について明らかにした。その成果は博士学位論文「ウォリントン・アカデミ0に関する歴史的研究-18世紀後半イングランドにおける都市エリートの教育」の第四章「学生の進路と専門職に向けての教育」にまとめた。
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