研究概要 |
本年度の研究では,先行研究の到達点と課題の解明,および各国の理論動向の把握を進めることによって,本研究実施のための分析視角・視点の設定を行った。これに加えて,わが国における公立学校統廃合と地域再生との関係に焦点を当てて,事例調査を試みた調査を行ったA県X町およびY市の事例について,前者の場合,いわゆる「限界集落」化していく地域の現状と,財政状況の深刻な悪化の下で,住民全体に町の将来についての不安が募る中,主導層の中から旧来の「エリート支配型」町行政に限界が来たとの判断が生み出された。これに基づき,住民参加型の学校配置検討審議会が設けられた。だが実際の審議では,議論への習熟,情報の公開と共有,学校一地域間の関係像の明確な提示等において不備が浮上し,円滑に進まなかった。後者の場合,審議会自体は財政効率のためでなく「教育のバージョンアップ」の観点から,学校の統合を図るという視点で,わずかの統廃合を決定した。しかし,その後,首長部局や議会において市の長期総合計画との関連で計画が策定される中で,審議会答申を覆して統廃合の規模を増やす案が示された。審議会の存在意義と計画の正統性が問われるなか,「児童生徒がまちづくりの犠牲になる」との批判も招き,学校統廃合とまちづくりの論理関係が改れめて問い直される毛塚となった。理論的検討および事例調査より,政策課題として,学校統廃合の必要性・効果・デメリットに関する尺度間関係の評価手法の開発,教育固有の論理からナショナルミニマムの確固たる提示,および学級定数に関する人口密度や交通利便性等に基づく柔軟な緩和措置等が浮かび上がった。以上の諸点を中心として,学会における研究成果発表および学術論文の作成を行っている。
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