研究概要 |
本年度は三ヶ年に及ぶ研究の最終とりまとめを行った。とりわけ,今後のわが国において重要な政策課題となり得ることに鑑み,学校統廃合をめぐる政策研究上の課題について,改めて先行研究との関連の下で再検討・再定式化を試みた。従来の研究・言説においては,学校統廃合の推進にせよ,否定にせよ,そもそも公立学校が社会的威信を低下させてきたこと,および,人口減・少子高齢化に対応する定常型社会に向けた教育グランドデザインが不可欠なことの双方を十分に視野に入れてきたとは言えない。そこから逆都市化の時代と学校・教師批判の時代とをいわば楕円の二焦点とするように構成されるものとして,複合的な現代的課題を読み取ることの基本的な必要性を論じた。その上で,第一に,各地の学校再編動向を児童生徒・教職員の集約を通じた地域教育の人心一新を目指す試みとして意味づけ,地方教育の窮状から創発される教育的価値の創造を見据える状況認識に基づくこと,第二に,公立学校批判の風潮下での学校建営意識の空洞化をリアルに捉えた上で現状分析・方向提起を行う立場に立つこと,第三に,地方での公務労働の再定位と利害関係者の能動的な動員を伴い,かつての教育行政単位論を学校への地域社会的支持基盤の再創出という視点から復権させること,という三つの理論的視座を明確化した。そこから仮説的に導かれる政策研究課題として,学校統廃合に関する市町村-都道府県一国といった行政機構間の関係について能動的な捉え直しが不可避であること,市町村の枠を超えた中型学区等の教育独自の地理的・人口的区分と財源とを併せた新たなまとまりの構想が求められることを明らかにした。以上については,学会での研究交流を通じた報告の取りまとめ,および学術図書の単著論文として発表を行った。
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