ケイパビリティ・アプローチにおいて、教育の社会的役割や価値がどのように捉えられているのかを明らかにすることを通して、現代社会における教育の公共性の意味について考察することを目指している。 民主主義と教育をテーマとする論考を近々出版する予定だとのお話を一昨年あたりにヌスバウム氏より伺っていたため、昨年度はこの文献の精読をテーマとして考えていたが、刊行がなされなかったため予定変更を余儀なくされた。(当該文献、Not for Profit:Why Democracy Needs The Humanities?は2010年4月に刊行され、今後の検討文献としたい。)そこで、ケイパビリティ・アプローチが鋭く批判するネオリベラリズムの思想との対比を行うことによって、ケイパビリティ・アプローチを相対化していくことを目指した。 まず現場視察においては「民主的市民」教育の実践について、特にカリフォルニア州に着目した視察を行った。カリフォルニア州は、ネオリベラリズムに基づく政策を全米でも最も積極的に導入した州である。IT長者などが集まる経済的に恵まれた人たちの暮す地域と、安価な労働力としてメキシコより移住してきた、経済的に厳しい生活をしている人たちが暮す地域とが隣接している場所を選び、双方の地域での教育状況(公立学校および無償の教育機会を提供しているセンター)について視察と意見交換を行うことができた。 理論研究においては、特にフリードマンに着目した思想検討を行う一方で、国内におけるケイパビリティ・アプローチへ言及している全ての論考を収集し、精読した。また海外(主にアメリカにおける)センおよびヌスバウム双方へ言及している全ての論考についても収集と精読を行った。
|