新自由主義的教育改革の流れの中でも第二世代改革といわれる諸改革のうち、教師の専門性及び教育における自由について考える上で示唆的と思われる事例として、ニュージーランドの後期中等教育段階における全国統一資格制度(NCEA)の改革について調査を行い、同国の多様な公教育制度を代表する複数のタイプの学校への訪問調査及びイフダビュー調査の結果とあわせ、その政治的状況について整理し、論文にまとめた。具体的には、1980年代以降の分権化政策によって多様化し、それぞれに異なる特色を有するに至っている諸学校が、国家統一的な新資格制度の導入をどのように捉えているがに焦点をあて、分析を行った。その結果、目標基準準拠テストを中心とする単位累積的な資格制度の導入は、マイノリティや社会経済的に不利な層が通う学校、リベラルな校風で知られる学校等では積極的に受け止められている傾向が強いのに対して、進学重視の私立学校や全人教育をうたう統合学校等では、自分たちの教育展開を阻む「制約」として否定的に捉えられており、同統一資格制度からの離脱を積極的にはかる著名な私立学校の例も見られるなど、統一資格制度をめぐる立場が教育内容と相関的であることが明らかになった。他方、宗派系統合学校にあっては、同資格制度を積極的に捉え、同資格体系内において新たに「宗教学」の資格創造を推進する動きも見られるなど、一見すると画一的な統一制度ではあるが、その制度体系内における資格価値の多元化によって教育の更なる多様化を展開しようとする動きも確認された。さらに本年度に行った研究め成果として、初等・中等段階において新カリキュラムが段階的に導入中であり、また年度後半には政権交代を受けて初等教育段階に全国統一の国家基準が導入されたため、それらの施策内容と教師による受容について調査を行い、論文にまとめた。
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