研究概要 |
本研究は, イギリスにおける大学の社会連携のあり方を歴史的に明らかにすることを目的としている。とくに,オックスフォードを中心とした大学と労働者階級への高等教育の普及をめざして設立された労働者教育協会とが連携,協力して展開した大学成人教育運動に焦点を当てている。本年度は以下の成果を得た。(1)労働者教育協会の代表アルバート・マンスブリッジに着目し、大英図書館に所蔵されている史料を中心に関係する史料の調査・収集・分析をすすめた。これら史料をもちいてマンスブリッジの大学観を明らかにすることで、教育を提供する側である大学と受け手の労働者の結びつきを可能にした思想の解明を試みた。成果は、青山学院大学で開催された教育史学会で報告した。(2)労働者教育協会の特質は大学と労働者組織を架橋した点にある。本年度は、労働者教育協会と労働者組織の結びつきのあり方と活動を「労働者教育協会の設立過程-初期の組織と活動を中心に-」にまとめた。労働者教育協会は中央レベルと地方レベルで労働組合を主としつつも多様な目的や活動を展開する労働者組織と協会の運営と活動の両方で連携し、大学レベルのクラスだけでなくその基礎となる教育事業をも実施していたことを明らかにした。(3)労働者教育協会バーミンガム支部に関する史料の調査・収集をすすめた。バーミンガムは、大学に昇格したばかりのバーミンガム大学があらたな社会連携のあり方を模索するなかで労働者教育協会バーミンガム支部と結びつき、多くの労働者組織と連携して積極的な活動を展開した地域である。本事例は、20世紀初頭の市民大学が大学の機能としての社会連携をどう位置づけようとしていたのかを考察するよい事例となると考える。史料の分析をすすめ、来年度以降に研究会等でその成果を報告したい。
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