本研究の課題は、在日ブラジル人青少年の進路・教育選択過程を、教育人類学的観点から明らかにすることである。2010年度ならびに産前産後の休職により繰り越しを行った2011年度は、在日ブラジル人青少年の進路・教育選択のひとつであるブラジル人学校に焦点を当てて研究を行った。群馬県大泉市・太田市、静岡県浜松市、岐阜県大垣市、滋賀県愛荘町・湖南市・米原市にあるブラジル人学校を訪問して、ブラジル人学校での参与観察と、ブラジル人学校経営者および学校長に対して聞き取り調査を行った。調査の結果、ブラジル人学校では、リーマンショックの影響が後を引き、家庭の経済状況も学校の経営状況も困難な状況に置かれていることが明らかとなった。ブラジル人学校では、家庭の経済状況を考慮して、授業料の引き下げや日本語教育への強化等によって、退学者を減らすための措置を講じているが、生徒数の減少によって閉校する学校が後を絶たない。また、文部科学省は、定住外国人の子どもの就学支援事業として「虹の架け橋教室事業」を実施し、ブラジル人学校を退学した子どもたちに対して日本語指導等を行っているが、同教室に通うブラジル人児童生徒の多くは、公立学校へ編入ではなく、ブラジル人学校での復学を希望していることが明らかとなった。 一方、2011~2012年度は、公立校を卒業後、日本の高校に進学している在学中のブラジル人生徒とその保護者にもインタビュー調査を行った。ブラジル人生徒の日本の高校を可能にするためには、生徒の資質や努力のみならず、中学校での進路指導や保護者の教育戦略などいくつかの条件が必要となるが、本調査では、本人ならびに保護者へのインタビューの結果、親の出身階層や学歴、家庭での経済状況よりむしろ、中学校までの友人関係や進学を希望する親の意志の方が、高校進学やそれ以降の進学を促進させることが明らかとなった。
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