研究概要 |
本研究の目的は, 高等学校における創造的・問題解決的な数学の授業の具体を提案することである。本年度は, 高等学校数学I「正弦定理」の学習に焦点をあて研究を進めた。主な知見は, 以下の3点である。 1. 現在, 高等学校で使用されている数学Iの教科書(8社21種)を分析した結果, 各教科書で採用されている証明方法は大きく3つの方法に大別でき, その証明過程は, 内包的一般化と外延的一般化という2つの一般化が繰り返される複雑な過程であることが分かった。このことは, 正弦定理の教授・学習に対し, 一般化に関する教授学的理論が有効な示唆をもたらしうることを意味する。 2. 一般化の全体像と, その本質的な過程を明らかにするDorfler(1991)の一般化モデルに基づき, 正弦定理の証明過程を分析した結果, 正弦定理の証明(一般化)における「活動の不変項」と「活動の体系」を同定することができた。具体的には「三角形の一辺とその対角の大きさが決まれば, 外接円が一意に決まる」という関係を「活動の不変項」とし, 「線分BCの上側に∠Aが等しい△ABCを多数かく」という作業を, 出発の状況における「活動の体系」とした。 3. 前項の知見に基づき, 正弦定理の導入授業を設計し, 授業実践を通してその効果や妥当性について検証した。その結果, 例えば事後アンケートにおける「今後も, 数学の授業の中で, 公式を自分でつくったり, きまりが成り立つ理由を自分で考えたりしたいと思いますか」や「これまでの授業を通して, この式の意味やよさを理解することができましたか」という質問項目に対し,そのような授業を通して正弦定理を学習した生徒は, そうでない生徒よりも「考えたい」, 「理解できた」と答える生徒の割合が2倍以上も高かった。また, 1ヶ月後に実施した正弦定理の証明に関する保持テストでは, 適切な証明を再現できる生徒の割合が3倍以上も高かった。
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