研究概要 |
本研究の目的は,高等学校における創造的・問題解決的な数学の授業の具体を提案することである。研究最終年度としての本年度では,前年度に開発した高等学校数学I「正弦定理」の教材や教授・学習過程に焦点を当て,異なる被験者や授業者による授業実践を行い,その効果や妥当性について再度,検証を行った。主要な知見は以下の2点である。 1. 授業前に実施した質問紙調査における「数学の授業で,公式やきまりを習うとき,なぜそうなるかは自分たちで考えたいですか」という質問項目に対し,肯定的な回答を示した生徒は4割に満たなかった。しかしながら,授業後に実施した質問紙調査においては,「今後も,数学の授業の中で,公式を自分でつくったり,きまりが成り立つ理由を自分で考えたりしたいと思いますか」という質問項目に対し,8割以上の生徒が肯定的な回答を示した。他の授業内容の理解や自ら考えることに関する質問項目に対しても,ほぼ8割から9割の生徒が肯定的な回答を示しており,これらの結果は,前年度とは異なる被験者や授業者による授業実践であったにも関わらず,前年度とほぼ同じ割合であった。 2. 授業実践の1ヶ月後に実施した,正弦定理の証明に関する保持テストにおいては,鋭角の場合について適切な証明を再現できた生徒の割合は,前年度とほぼ同様8割程度であったが,鈍角や直角の場合については5割を下回る結果となった。このことは,我々の想定した導入課題(教材)は,正弦定理の一般化のプロセスにおける「活動の不変項」を内包し,活動の動機付けを与える出発の状況としての機能を果たした一方で,鈍角や直角の場合に拡張する外延的一般化の段階では,十分に機能していないことを意味している。正弦定理の一般化のプロセスにおける外延的一般化の段階について,さらなる検討を重ねることが,今後の課題である。
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