研究概要 |
当該年度は主に2つの視点から,先端テクノロジーの科学原理を組み込んだ科学教育カリキュラムの実態と構成原理の一端を明らかにした。 1つめは,日本の中等科学教育カリキュラムにおけるテクノロジー教材の特徴を明らかにするため,当該教材と科学原理との関わりに着目した。具体的には,化学領域の石油化学工業教材を典型例にして,戦後発行の高等学校化学教科書および教師用指導書の分析を行った。その結果,(1)石油化学原料および製品に関する記述内容が多く見られ,(2)ほぼ一貫して関連づけられた科学原理には,分留,クラッキング等々があり,(3)教科書執筆者の間には,純粋自然科学の学問体系に基づいた系統性の観点から石油化学工業教材の取扱いに賛否があった事実を明らかにした。 2つめは,日本の科学教育カリキュラムにおけるテクノロジー教材と体験活動との関わりに着目した。第二次世界大戦前に各地の科学授業で行われていた「工場見学」のディスコースを調べた。主に大正期から昭和前期に発行された教育雑誌記事にみられた,(1)工場見学の意図と(2)その問題点と打開の仕方について類型化した。その結果,(1)には3つの類型(実用主義と校外教授,郷土化運動と理科教材,戦時体制と工場見学)を,(2)には4つの類型(見学可能な工場の調査,実物教授の推奨,視聴覚メディアの活用,教科外活動への編入)を見つけることができた。これらの類型に基づきながら,日本の科学教育カリキュラムの「工場見学」に見られた科学教育カリキュラム・ディスコースの推移を探り,そのモデルを提示した。
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