本年度は、主に、以下の3つの作業を行った。 1. 日本における障害者教育史に関する資料(知的障害教育中心)の整理作業及び考察 わが国における「低能児」教育(大正・昭和戦前期)及び「精神薄弱児」教育(戦後〜1960年頃)を知的障害教育の試行期ととらえ、その試行の結果、知的障害教育の理念と方法が、生活教育へと結実したことを考察した。すなわち、知的障害者は知的機能の「限定的発達」があることを前提に、文字・教科書による間接経験教授を中心とする通常教育のカリキュラムに替えて、生活カリキュラムあるいは経験カリキュラムが適用され、知的障害児の成長や能力獲得の評価は、「社会生活能力」を指標とし、社会生活能力の形成そのものが目的とされた。この結果、教科課程と教科外課程の比重が、通常教育や他障害種の教育と知的障害教育とで異なることになった。また、自立活動の捉えかたの違いなどにも反映していることが推察された。 2. 特別支援教育への転換の背景の整理作業及び考察。 わが国におけるインクルーシブカリキュラム開発を考える上で必要な基礎作業として、これまでの各種答申や学習指導要領の改訂、通常教育における学力問題の議論などから、障害児教育から特別支援教育への転換の背景について、整理した。 3. 米国におけるジェネラルカリキュラム、知的障害カリキュラムに関する情報収集作業。 知的障害者に必要なカリキュラム開発の考え方の一例としての"Life goal curriculum planning approach" についての文献を収集し、一部を読みすすめるとともに、インクルーシブ教育におけるジェネラルカリキュラム論等に関する文献の収集を行なった。
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