1.ドイツロ話法の思想的基盤の歴史的検討 ドイツロ話法の父であるサミュエル・ハイニッケの創設したライプツィヒ聾学校の聴覚言語障害文庫にて、貴重資料の閲覧・複写、特に20世紀初頭のドイツの難聴児教育に関する資料を収集するとともに、今後、ドイツの聴覚障害教育の歴史的研究を深めていく上で有用となる史資料の所蔵状況の把握、文庫責任者との面談による情報収集をおこなった。 2.日本の聴覚障害教育における耳鼻咽喉科学の役割の総合的検討 昨年度に引き続き、九州帝国大学医学部耳鼻咽喉科学教室の役割に関する分析をおこない、今後解明すべき4つの課題を示した。第一に、明治末期から昭和戦前期において、連続音叉やオージオメータを用いた検査がどの程度の判定力をもったのかという点、第二に、聾〓児の聴力評価が聾〓学校の教育方法上の開発や、別種の学校・学級の設置といった制度上の整備とどう関係したのかという点、第三に、教育方法の実質的な変化が生じる時期とその結果、そして第四に、他大学の耳鼻咽喉科教室による臨床・研究活動や聾〓教育への関与との異同である。 3.現代ドイツの聴覚障害教育の研究動向および現状の調査 ミュンヘン大学心理教育学部附属図書館での聴覚障害教育・福祉・医療関係の諸資料の調査から、ドイツでは人工内耳に対する関心が高まっていると同時に、聴覚障害のある子どものアイデンティティ形成についても問題関心が持たれていること、成人聴覚障害者が文化的活動や聴覚障害者の生活史・教育史への強い関心をもっていることが了解された。 ライプツィヒでは、義務教育段階後の聴覚障害青年の教育・訓練の場の一つである、ライプツィヒ聴覚言語障害者のための職業訓練センターの見学、市内の初等学校で聴覚障害児が1名在籍するクラスの授業見学をおこない、聴覚障害のある青年の社会参加に向けた取り組みの特徴、通常学校で学ぶ聴覚障害児への教育的支援の現状を把握した。
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