本年度は、戦時下地方都市の愛育事業において、障害乳幼児・保育困難児問題への対応がどのように具体化され、それらが当時の保育事業や母子保健衛生事業にいかなる影響を与えたのかを検討するために、「第三善隣館」(石川県金沢市)に設置された恩賜財団愛育会石川県分室の愛育事業について調査を実施した。具体的には、社会福祉法人第三善隣館に所蔵されている財政関係資料の調査・検討を中心に作業を行った。 第三善隣館に愛育会地方分室が設置されたのは、1938年4月であった。第三善隣館では、かねてから保育・母子保健衛生事業に力点を置いた方面委員事業を展開してきた荒崎良道のもとで地方分室の設置を積極的に受け入れ、金沢医科大学衛生学教室の村上賢三、高口保明、瀧田友生ら、医学・衛生学プロパーの支援を受けながら、愛育事業に着手した。そのなかで、保育児のうち虚弱児を対象とした「特殊保育事業」が取り組まれた。従来の方面委員制度を基盤にしながら、1939年1月には愛育班が組織され、6月にはさらに愛育婦人会が結成されている。地方分室の活動は、愛育会機関新聞『愛育新聞』を通じて全国に紹介された(瀧田友生「愛育事業の分野に於る石川県方面委員の役割」『愛育新聞』第2巻8号、瀧田友生「都市愛育班の組織と事業-第三善隣館に於て実施の標記事業に就て-」『同前』第3巻11号)。1943年1月には、本会により石川県支部が設置され、金沢市材木町校下、金沢市指導地区、能美郡金野村、河北郡川北村、鹿島郡金丸村・滝尾村、珠洲郡和歌山村にそれぞれ市町村分会が組織されるに至った。
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