平成20年度は、大きく3つの研究を行った。第一に、聴覚障害児の日本語力、特に文法理解能力という観点から、J-COSSというテストバッテリーを用いて、111名の聴覚障害児に実施した。学年で平均を取ると、非常に個人差が大きく次一貫した傾向が見られなかったため、20の文法カテゴリーの通過率ごとにグループに分け、成績上位群から4つのグループに分けグループごとに分析を行った。成績上位群であっても、聴児ではもっと早い時期に通過する比較表現や受動文の理解の落ち込みが見られ、聴児とは異なる文法理解方略を用いていることが推察された。これにより、具体的な日本語指導の在り方や内容について、検討することが可能になった。また、手話力と日本語力の相関を見たところ、やや強い相関があったことも明らかとなった。 第二に、手話を積極的に活用しているろう学校の授業実践を観察し、その後ろう学校教員とディスカッションする機会を計8回作った。その中で、日本語学習のうち、手話の力が活用できる点として、語彙や文法、心情理解や物語の楽しさを味わうことなどが挙げられたが、活用や音韻の部分は、手話だけでは指導が難しく、聴覚活用やドリルなどを用いながら、日々の積み重ねの指導が重要であることが明らかとなった。なお、観察した授業やディスカッションの内容については、一定のフォーマットで記録を行い、次年度も継続して調査を行う中で、日本語習得支援のモデル授業を作る上での参考資料としたい。 第三に、日本手話の言語学的特徴について、これまでの日本手話に関する言語学的研究を整理し、ろう学校教員に身につけてほしい手話言語学の基礎的な知見をまとめる基礎資料を収集した。さらに資料を集め、次年度には日本手話の言語学について簡単なパンフレットを作成したい。
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