本年度は、3年間にわたる本プロジェクトのまとめとして、聴覚障害児の持っている手話力をどのように日本語リテラシー習得につなげていくのかについて、現在ろう学校で行われている実践を整理した。実践は、1) 手話ビデオを活用した指導、2) リライト文と手話による話し合いを活用した指導、3) 手話文法と日本語文法を関連付けた指導、の3つが見られた。1) は、小学校国語科教科書を手話翻訳した手話ビデオ教材を用いた指導であり、教科書を開く前に手話ビデオを通して内容を深め、深めた内容について、教科書の日本語本文を通して、日本語そのものを学んでいくという授業である。2) は、授業者が教科書の内容を対象児が自力で読める程度の長さの日本語文(リライト文)に作り替え、リライト文を使って手話で話し合い活動をし、内容を深めたうえで、教科書本文を通して日本語を学習していくというものである。3) は、日本語の自動詞と他動詞、受身形、比較などの文法を学習する際、すでに獲得している手話の文法を日本語文法と比較しながら学習していく授業である。1)と2) は、訪問した学校の多くで行われ、学力的に厳しい聴覚障害児に対して国語の授業をする際、対象児のモチベーションを下げずに日本語の学習ができ、また語彙や字句の意味にとどまらず本文の内容に踏み込んだ指導ができるという利点があった。一方、手話を活用しにくい聴覚障害児がいることも明らかになった。特に、本研究によって開発した「日本手話文法理解テスト」で一定水準以下の手話力しかない子どもの場合、手話の力が十分でないため手話による話し合いでも議論や理解が深まらず、日本語につながりにくい事例もあった。3) の事例は、指導実践としてはまだ多くはなく、手話文法を使った日本語指導の実践集を作る上で、このような実践記録をを基礎資料として集めていくことが必要であろう。
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