研究概要 |
I. 研究目的 本研究では,公立保育所の担任保育士が担任しているクラスの慢性疾患患児の在籍状況と,担任した具体的な1事例について,保育士の疾患理解や保育の現状,保護者とのかかわりのあり方について調査し,慢性疾患患児をめぐる保育の現況と今後の課題について明らかにすることを目的とした。 II. 方法 岡山市内の54園の公立保育所の園長宛に,慢性疾患患児の保育に関する無記名式の質問紙を5部ずつ配布し,各クラスの主担任保育士による回答を依頼した。 III. 結果 全54園中45園(回収率83.3%),198人から回答が得られた(回収率73.3%)。 担任クラスに慢性疾患をもつ子どもが在籍する保育者は,回答者の8割を越えていた。多かった疾患は,食物アレルギー,アトピー性皮膚炎,喘息であった。具体的な1事例に関する回答から,保育者は子どもの症状や注意事項を概ね理解していることが示された。 約4割の保育者が,日々の保育の中で必要な配慮のあり方や緊急時の対応など,身体管理に不安を抱いることがわかった。しかし,医療機関との連携は十分でなく,保護者を介しての連携にとどまっていた。 保護者との連携は概ね出来ているとの認識であったが,子どもとその保護者とのかかわりにおいて「気になることがある」と回答したのは27.2%であった。 "子どものことに敏感になりすぎている""子どもの言いなりになっている"といった子どもへの過保護が指摘された一方、子どものことに無頓着な保護者に困難感を抱く保育者もいた。 保護者との連携における今後の課題として,"保護者との直接的な話し合いの時間を確保する(当番保育などの調整)"など,保育士が保護者と子どもに対する共通認識をもち,日々の子どもの心身の状態を共有できる関係を築くことを課題としていた。その際,"保育士には理解しにくい保護者の価値観や考え方も否定しないこと""保護者の要望に応じにくい場合の対応のあり方"など,基本的には保護者の意向を尊重しつつも,保育所で請け負える範囲を明確に提示することなども課題として挙げられた。連携を実施可能な形にすることが今後の課題として示された。 IV. 考察 長時間にわたって子どもの保育にあたる保育士は,さまざまな生活の場面における子どもの言動や,他児とのかかわりから,発達の様相や内面への理解を深めている。疾患自体へのはたらきかけはできなくとも,疾患のとらえ方や疾患をもつことによる二次的な障害に対しては,"子どもの心身の発達可能性を最大限に助長する"という保育の専門性を活かすことができるであろう。
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