染川氏により導入された半アーベル多様体を係数に持つMilnor K群は、通常のMilnor K群と同様にsymbolによって曲線の積の高次Chow群を記述する。染川氏は、このMilnor K群とガロア・コホモロジーを結ぶsymbol写像を構成し、その単射性を予想した。この予想はBloch-加藤予想の一般化であり、サイクル写像や相互写像の単射性とも密接に関係する。 この群に関する数論的な研究として、Birch-Tate予想の拡張を得た。Birch-Tate予想は、総実代数体のK_2とデデキントゼータ関数の特殊値の関係を記述する。この関係をトーラス係数のMilnor K_2に一般化した。ここで、デデキントゼータ関数は余指標のArtin L関数に置き換えられる。証明の鍵は上記の染川氏の予想を特別な場合(トーラスと乗法群を係数とする場合)に示すことである。 一方で、特別なトーラスふたつを係数とする場合を考察することで、染川氏の予想は一般には成り立たないことを示した。(Bielefeld大学のMichael Spiess氏と共同研究。)また、これはBeilinsonによる最近の予想(同氏の有名な予想とは別のもの)への反例も与える。 最後に、代表的な代数的完全可積分系であるMumford系のスペクトル曲線が最大限に退化した場合(より詳しくは、A_{2g}型の特異点を持つ場合)に、等位集合が「完備化された一般ヤコビ多様体」の開部分多様体と同型となり、力学系の流れがヤコビ多様体の作用による流れとして線形化されることを証明した。さらに、その応用としてKdV方程式の有理関数解を(すべて)構成した。(Poitiers大学のPol Vanhaecke氏および東京大学の井上玲氏との共同研究。)
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