2007年度はアーベル多様体および曲線のポリログを理解するための下準備を始めた。今年度前期には当該研究の根拠でもある小林真一氏(名大多元)とのEisenstein-Kronecker数に関する共著論文、および小林氏・辻雄氏(東大数理)との楕円ポリログに関する共著諭文を書き上げた。後者の論文では当初supersingularな場合に苦労したが、最終的に肯定的に解決することに成功した。これらの論文は2007年度後期に学術雑誌に投稿して、現在査読中である。 また上記と平行して、ドイツのKings氏(Regensburg大学)とmoduli曲線上のEisenstein層のp-実現を具体的に決定した。結果として、Eisenstein層のp-進実現は、Katzによって定義されたp-進Eisenstein級数を用いて具体的に表せることを証明した。この結果はプレプリントとして論文にまとめたが、さらに結果を拡張することを視野に入れて、現時点では学術雑誌への投稿を見送っている。 2007年度の1月に、ドイツのDavid Blottiere氏(Paderborn大学)を2週間、名古屋大学へ招聰した。Blottiere氏はアーベル多様体のポリログ層のlocal systemをcurrentとして具体的に決定した若い専門家である。アーベル多様体のポリログ層に関して多くの実りある議論を通して、有用な知見を得ることができた。同じく2007年度の後期には京都大学数理解析研究所の安田正大氏と、曲線のポリログの構成について考察を始めた。特にKings氏が曲線に対して建義した非可換ポリログが、Hodge実現の場合にも定義されることを確かめた。今後はこの実現をテータ関数を用いて具体的に記述することが当面の目標である。
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