本年度は、研究実施計画に記した「弦理論的モチーフ的測度」および「相対Gromov-Witten不変量の計算」について進展があった(現在論文を準備中)。 弦理論的モチーフ的測度については、minimal log discrepancyの昇鎖律の精密化として、適当なクラスの特異点について降鎖律が成り立つか否かを調べていた。これについて、二つの場合に成り立つことが分かった。 ・任意次元のトーリック多様体上で標準的係数を持つトーリックな境界を考えた場合。これは、トーリック多様体の弦理論的モチーフ的測度の計算およびAmbroによるCartier指数の有限性から容易に従う。 ・降鎖律を満たす実数の集合を選んでおき、二次元トーリック特異点とトーリックな境界で係数を前述の集合から取る場合。これは、Alexeevによるminimal log discrepancyの昇鎖律の証明を精密化することにより得られる。同時に、Cartier指数の有限性の実係数の場合における類似も得られた。 相対Gromov-Witten不変量については、射影平面と非特異三次曲線の組について考察した。この場合、可約な退化が必然的に現れるため、その寄与の計算が必要となる。その多重度がいくらであるべきか、という点について既に予測が得られていたが、今回、モジュライにおいて対応する点でのスタック構造を調べることによって確かめた。 研究実施計画に記した「形式的ループ空間・アーク空間とFrobenius写像との類似」については、ループ空間におけるアーク空間の無限小近傍についていくつかの計算を行ったが、特異点への応用については明確な進展が得られなかった。
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