研究概要 |
クライン群の変形空間について研究している.ここでクライン群とは3次元双曲空間の等長変換群の離散部分群のことであり,双曲空間をクライン群の作用で割った空間は3次元双曲多様体となる.特に商多様体が理想境界を持つ場合,クライン群の変形は理想境界の等角構造の変形で記述できるのであるが,この対応の連続性・不連続性については未知の部分が多く,いくつかの興味深い不連続性が知られている.その中でも,私はKerckhoff-Thurstonによって見出された「タイヒミュラー空間のベアスコンパクト化の基点に関する不連の続性」に代表される現象に興味を持って研究している. さて,その研究の一環として,昨年度は穴あきトーラス群の変形空間の複素1次元スライスであるリニア・スライスが,対応するトレースの値を2に近づけたときにマスキット・スライスにどのように近づくかを考察し,「幾何収束するための必要十分条件はトレースが2にhorocyclicに収束することである」という結果の着想を得た.今年度はこの結果を論文の形にするために多くの力を注いだ.その過程で,Brombergが穴あきトーラス群の変形空間の非局所連結性を示すために導入した座標が,トレースを用いた座標と非常に相性がいいという認識に達した.現在はそのBrombergの座標とトレースの座標の関係を明らかにする形でリニア・スライスに関する結果を論文にまとめている最中である.クライン群の変形空間の境界挙動を理解するために,トレースの座標(もしくは複素Fenchel-Nielsen座標)を用いるのは穴あきトーラス群に限らず,今後,非常に有効であると期待される.
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