平成20年度も前年度に引き続き、ラグランジュはめ込みのフレアー理論の研究を行った。具体的な内容は、深谷-Oh-太田-小野により構成されたラグランジュ部分多様体のA無限大代数をラグランジュはめ込みの場合にも拡張して構成したことである。またオックスフォード大学のジョイス教授と共に、Kuranishiホモロジーを用いたラグランジュ部分多様体のフレアー理論の構成にも取り組んだ。これは深谷-Oh-太田-小野理論に現れる、安定写像のモジュライ空間から基本類を取り出すための非常に複雑なプロセスを、ある意味Kuranishiホモロジーというブラックボックスに押し込むことにより、フレアー理論を取り扱いやすくするという点で非常に重要な意義がある。しかしラグランジュはめ込みのフレアー理論にはまだ手付かずの問題がある。その一つが、bounding cochainを持つ例の構成である。この点については現在いくつかの試みを模索している最中である。その一つが京都大学の深谷賢治教授のアイデアによるラグランジュ対応を用いるもの、もう一つは本研究者によるラグランジュ平均曲率流を用いるものである。前者についてはまだ解析的な困難が多く、今後とも引き続き研究を行う必要がある。また後者に対しては、ラグランジュ平均曲率流とシンプレクティック面積の関係についていくつかの結果が得られ、今後この方面からのアプローチに非常に重要な手がかりになるのではないかと考えられる。
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