研究概要 |
確率論における重要な研究対象の一つにブラウン運動と呼ばれる確率過程がある. その確率過程を経路空間上に実現したものがウィーナー空間であり, この無限次元空間における, マリアバン微分に基づいた微分積分学はマリアバン解析と呼ばれる. 研究代表者は, 2006年の研究において, ウィーナー空間の部分集合として経路の各時点での値が常にユークリッド空間内のある有界領域内に留まるものを考え, マリアバンの部分積分公式をその部分集合上に制限すれば, 有限次元におけるガウスの発散公式と同様にその部分集合の境界からの寄与と呼ぶべき項が現れ, 有界領域の境界に十分な滑らかさを仮定すれば,対応するコーシー問題の熱核の法線微分を用いてその項が具体的に表わされることを見出した. しかし, その表現の導出は直接的な計算に依っており, その背景にあるもの, 例えば, 領域変形の下での熱核の変分を記述するアダマールの変分公式の表現との類似性が生じる理由, は明らかではなかった. 研究代表者は, 前年度の研究において上記の設定の下での無限次元発散公式とアダマールの変分公式とは, ともにブラウン運動のある分解公式からの帰結として統一的に捉えられることを発見した. 本年度は, 研究代表者が発見したその分解公式について, どのような条件下までその成立が保証されるかを考察するとともに, 関連するテーマとして, 最大値過程のようなマリアバン微分の意味で1階の微分可能性しか持たないウィーナー汎関数(ウィーナー空間上で定義された関数)が, ルベーグ測度に関して滑らかな密度関数を持つための条件について考察した.
|